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リスクのモノサシ—安全・安心生活はありうるか (NHKブックス)

2006刊行。この人の著作を読むのは初めてだったが、波長が合ったのか、考え方も整理できて有益な一冊だった。その後の新刊も読んでみたい。
インフルエンザに関する論も多数掲載されている。それも含めて、いくつか感想を。

まずメディアの問題を論じた後、続いて第2章という早い部分で専門家の問題を扱っているのに好感を持った。専門家は客観性を重視してトレーニングされるあまり、自分の判断が客観的であるという過信に陥りやすいのではないか、と著者は投げかける。この素朴なリアリズムがあるために専門家はなかなか自説を曲げない。それがリスク評価の混乱に繋がるという論点。むしろ専門家はしっかりデータを見て、リスク評価をどんどん更新すべきだという意見は重要だと感じた。

第4章でリスク評価のモノサシを提案していて興味深いが、これはインフルエンザにふさわしい方法だろうか。
人は個々のリスク評価をうまく考えられないので、あらかじめがんのリスクはこれくらい、交通事故はこれくらい、火事、自然災害、落雷による死亡はこれくらい、と一覧表にしておいて、そこにいま知りたいリスク評価を組み込むことで、より客観視できるというもの。たとえばインフルエンザ最悪のシナリオで68万人が亡くなるとすると、10万人あたりの年間死亡者概数は500となり、これはがんの250より上。こうしてみると、こんなことはありえないとわかる、と著者はいう。
だがどうなんだろう。「起こるかどうかが問題ではなく、いつ起こるかが問題」とよくいわれるように、1918年レベルのパンデミックがいつかくることは間違いないだろう。しかしそれがいつかはわからない。そしてインフルエンザは毎年変化する。つまりリスクがどんどん変化してゆくのがインフルエンザの特徴だろう。
つまりインフルエンザ全体としてみるなら、大きな危険がある。しかし今年はどうか、来年はどうかと、毎年のインフルエンザ状況に絞って考えるなら、リスクは大きく変わるわけで、こういったモノサシにそのまま一律に当て嵌めることはできないのでは? それがインフルエンザのリスク評価のいちばん難しいところなのでは?

後半の、信頼の話は興味深かった。人は誠実さでその人を信頼するのではなく、その人が自分と同意見であるかどうかで信頼するという仮説。また、リスク情報は安心ではなくむしろ不安をもたらすという指摘。
このへんは近著でさらに深まっているのだろうか。発展の余地を残しつつ将来性を感じさせる研究途上の報告書として、興味深く読めた。

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