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January 26, 2008

知的な距離感

クロースアップ・マジックの第一人者である前田知洋が書いた本。人間の「距離感」がテーマで、〈境界知〉提唱者のひとりである私としては「なるほど、マジシャンがそのテーマで書くならきっとおもしろいに違いない!」と思ったのだけれど、まあふつうでした。実際にマジックをするときに感じたことなど、自分のエピソードは少ししか書かれていなくて、多くは一般論ですね。もっと自分のエピソードをたくさんいれてほしかったかな。
それでも、著者が以前レストランで「マジックはいかがですか」と各テーブルを回っていたとき、ひとつのテーブルが受けると他のテーブルからも声がかかるとか、初めて社交パーティに行って緊張した話などはおもしろかった。

ところで、「知ったことしか書かれていない」という批評をよく目にする。人がこういうことを思う時って、どういう心理状態なんだろう、といつも私は考える。
どんな本であっても。本当に知ったことしか書かれていないということはまずない(これは断言できる。子ども向けの科学の本などでも、すべてが知っているということは絶対にない)。知らないことも書かれているはずなのに、それは意識からオミットされて、知っているという感覚ばかりで満たされてしまう。自分の不満を何か客観めいた感想に落とし込もうとして、こうなるのだろうか。知らないことでも想像の範囲内だと思ってしまうのだろうか。たんに著者に負けを認めるのが厭なのか(笑)。ちょっとこのことは真剣に調べてみたい気がする。

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January 25, 2008

マイケル・ファラデー—科学をすべての人に (オックスフォード科学の肖像)

「オックスフォード 科学の肖像」シリーズが、クリスマスに合わせてファラデーの巻を刊行。
このシリーズ、割と手堅く固まっているけれど、「グレート・ディスカバリーズ」に比べると全体的に艶のようなものが足りないかなあ。写真も豊富に入っているが、読書の喜びはあまり感じられない。でも取り上げられた人物の人となりについては、まさに手堅く理解できる。

ファラデーというとクリスマス講義の「ろうそくの科学」が有名で、科学コミュニケーションの代表例のようにいわれるのだが、なんと当時、科学講義で絶大な人気を博していたハンフリー・デーヴィという物理学者がいて、ファラデーは青年期にこの講義を聴いて大感激して彼に弟子入りし、そこから科学者人生をスタートさせているのだ。なるほど、「ろうそくの科学」は彼のタレントひとつで出来たものではなく、先達の強い影響下でつくられたものなのだ。
なんとなく、科学コミュニケーションの仕事をする人にとって勇気づけられる話である。
(でもデーヴィは後年になってファラデーの科学者としての成功を妬んだようだ)

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January 07, 2008

ブレイン・マシン・インタフェース—脳と機械をつなぐ/ブレイン・デコーディング—脳情報を読む

最近では研究者が何かムーヴメントをぶちあげたいと思ったらまず立花隆を呼んで説明し、彼がわからなかったらしゃべり方の対策を考えて、立花隆が食らいついてくるまで練り直すそうである。うーむ、なるほど、その意味で立花隆は日本の科学技術に大いに貢献しているといえますな。

「脳を活かす」研究会の分科会「脳を繋ぐ」「脳を読む」の講演録をまとめたもの。「脳を繋ぐ」分科会当日の様子は、Robot Watchでもレポートされている(こちら)。
一冊5000円と高いし、内容も一般向けではないが、分野の勃興期にこういう本を出してくれるのは嬉しい。この「脳を活かす」研究会、なかなかおもしろい活動を次々と繰り出している(関係者の間では「脳を活かす」ではなく「女をイカす」の発音で「脳をイカす」研究会と呼ばれています^^;)。
世間では脳と機械をつなぐ「ブレイン・マシン・インタフェース」のほうが有名だが、私には「ブレイン・デコーディング」のほうがおもしろく思えた。ATRの神谷之康はイントロを担当。痛みの感覚の研究(柿木隆介)や、社会科学からのアプローチ(アダム・スミスの人間観と脳科学の関係)などが興味深い。
しかし社会科学のほうから脳科学へいくつか提言が出されているが、ここでいきなりつまらなくなってしまう。というのも、そこで掲げられている提言の多くはすでに自然科学者が取り組んでいるものだから。社会科学者の勉強不足が如実にわかってしまって、断絶が浮き彫りにされてしまうのである。これは自然科学者から社会科学へのアプローチでも同様と思われる。分野が違うと論文を検索する手間暇さえかけたくなくなってしまうのだよね。このへんの断絶感、どうにかならないものかと前から思っているのだが。

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January 05, 2008

大学教授の株ゲーム - 学者が書いた株式入門 (日経ビジネス人文庫)

バブル最中の1988年に「週刊新潮」で連載されたエッセイを、いったん新潮社で単行本化し、日経で2000年に文庫化したもの。たぶん当時といまでは株相場の状況もかなり変わっていると思われるが、文章が軽妙でおもしろい。著者のふたりは経済学者と数理工学者(金融工学、ないしは理財工学)で、たぶん文中のXが斎藤、Yが今野、連載一回ごとに交代で書いていたと思われる。特に今野の担当部分がとってもいきいきしている。今野は他にも『金融工学20年』や新書の『金融工学の挑戦』を読んだが、どちらもおもしろい。特に新書の『金融工学の挑戦』は、野口悠紀雄『金融工学、こんなに面白い』や刈屋武昭『金融工学とは何か』よりだんぜんお薦め。
最初の目論見では金融工学の基礎をおおむねカバーしようとしていたようだが、編集部からの助言もあったらしく中盤からはリアルタイムでの株ゲームの報告になってしまった。そっちもまあ楽しいのだけれど、当初の目論見通りに進んでいたら私のような経済音痴にもかなり使える入門書となったことは確実で、惜しい限り。個人投資家が増えた現在、著者ふたりの株ゲームに共感する読者は多いと思う。

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