安全。でも、安心できない…—信頼をめぐる心理学 (ちくま新書)

本書のスタンスは、安全を信頼すると安心する、というもの。うーん、そうかも。いままでは安全=信頼×安心だと思っていた。
でもおもしろかった。リスクマネージメントでは、リスク管理に携わる人を人々が信頼することが大切だが、この分析が興味深い。これまでは「専門性の高い人」「意欲のある人」が信頼されやすいといわれていたが、実はこれはその事柄に対してさほど興味がない人にしかあてはまらない。その事柄に対して関心が高い人は、相手が自分と同じ意見かどうかで信頼性を判断しているという。自分はこんなに考えているんだから、専門家も同じことを考えるはずだというバイアスがかかるんだろうか。しかしこれ、いわれてみると、なるほどと思う。特定のコミュニティの中では、コミュニティ外の人を評価するとき、その人が誠実・専門的・意欲的かどうかより、自分と意見が同じかどうかで判断しているケースはあるよね。
著者の回答は、ならば「リスク管理者は顔を見せよう」というもの。人は感情に流されるので、それを逆手にとろうという戦略か。
なお伝統的解釈と、上述した新解釈のどちらが正しいかはまだ議論があるそう。状況によっても違うかもしれない。

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SARS いかに世界的流行を止められたか

財団法人結核予防会が2007.12に邦訳刊行。著者名:WHO西太平洋地域事務局、監修:押谷仁、訳:遠藤昌一、笠松美恵。図書館などには置いてあるようだが、一般には販売されていない。原著は2006刊行。

第1部 全体の展望
詳細な年表を含む。

第2部 各国・地域の概要
中国、香港、ベトナム、シンガポール、台湾、フィリピン、モンゴル、カナダ

第3部 アウトブレイク
スーパースプレッダーなどがどのようにして感染者を拡げていったかの詳細な考察。地図など具体的な資料も多い。

第4部 SARSの科学
臨床像、疫学など

第5部 将来

これはぜひとも手元に置いておきたい資料。
しかしそれ以上に、第5部の「SARSから何を学んだか」という章が胸に迫る。うまくいった点、うまくいかなかった点、それらがレビューされており、未来に向けての提言がある。
メディアはおおむね協力的であったという指摘や、メールやインターネットなど最新の情報通信が役立った(一方では風評ももたらしたが)という記述は興味深い。そしてその際、信頼できる情報をいかに集めて早期報告するか。国の疾病サーベイランスシステムが破壊状態にあるときのWHOの取り組みがどのようなものであり、何を目指すものなのか、本書でその一端に触れた気がする。

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リスクにあなたは騙される—「恐怖」を操る論理

→朝日新聞2009.6.28「バイアスにはまり込む心理を分析

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幻の馬幻の騎手 (文学のおくりもの 27)

1980刊行。3編の中篇を収録する原著から2編を収録。Old Mortality & Pale Horse, Pale Rider (1939)。
第一次大戦中のインフルエンザを描いた小説としては、おそらくもっとも有名なもの。終戦間際に主人公ミランダがインフルエンザに罹って見た幻覚が、切迫感を持って表現されている。コロラド州デンヴァーで著者が新聞記者をやっていたときの体験を元に書かれたものらしい。手が白い毒蜘蛛に見えるとか、希望もすべて遠ざかって残っているのは激しく燃える微粒子だけとか、クライマックス付近の文章力は圧倒的で、読んでいて息苦しくなる。中篇だが、なるほど深い余韻を残す作品だ。
ここで引用されている黒人霊歌を聴いてみたいんだが、どこかにないかな。

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世界を救った医師—SARSと闘い死んだカルロ・ウルバニの27日 (NHKスペシャルセレクション)

2004.7刊行。NHKスペシャルの書籍化で、執筆担当は虫明英樹。番組はソフト化されていないようだ。
刻々と状況が変化してゆく切迫した様子を非常にうまく文章化している。虫明はこういった文章がうまい。全体としてもよくまとまった好著で感情を揺さぶるが、一方ではもっと読み応えのある名著になり得たのではないかという思いもある。このあたり難しいところ。
ラストでWHOの進藤奈邦子と押谷仁のコメントがあり、ウルバニ医師の行為の両義性を読者に問いかけている。「第二のカルロは絶対に出してはいけない」という決意の後、今回の新型インフルエンザにおけるさまざまな結果を経て、いまどのような対策がよいと考えられているのか、知りたいところである。

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NHKスペシャル 最強ウイルス—新型インフルエンザの恐怖

2008.5刊行。2008.1.12,13放送のNHKスペシャル番組をもとに、大幅加筆して書籍化。
執筆担当者は虫明英樹、斎藤真貴、和泉田映。虫明氏はSARSの「カルロ・ウルバニ」本の執筆者でもある。
番組は第1夜がドラマ仕立て、第2夜がドキュメンタリー仕立てになっていて、いずれも社会に大きなインパクトを与えた。この放送を受けて、2008年度から厚生労働省には「新型インフルエンザ対策委員会」が設けられたとも記されている。その委員会で、押谷仁先生が「失望しました」と不満をぶちまけたことも、本書には記されている。

インドネシアでの医師たちの動きを追った第1章はなかなかの迫力。
ただ、一冊の本として見ると、やはり薄い感じがしてしまう。海外ではドキュメンタリー制作者が骨太な科学ノンフィクションをつくりあげるのと比較すると、どうしても見劣りしてしまうことも確か。いっそ書籍化はプロのノンフィクション作家にじっくり任せたほうがいいのではないかとも思う。
また、H5N1に焦点が当たっているため、切迫感はあるが結果的に現実を写し切れていない構成になってしまっている。本を作る難しさである。それをフォローするため、巻末で田代眞人、喜田宏、押谷仁の各氏から新たにコメントを取り、掲載してバランスを取っている。
海外の動向は生々しく伝えられており興味深いが、これらが一般的な状況なのか、あるいは先進的な取り組みなのか、そのへんはちょっとわからなかった。

パンデミックのときは病院に患者が殺到するため、ひとりひとりの患者に最善を尽くすのを諦め、より多くの患者を診る態勢に切り替える、という看護師の言葉が興味深い。若い看護師は痛みを訴える個々人の患者に万全の治療を施したいと考えがちだが、パンデミック時にはそういった考えは切り替えないといけないとのこと。

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リスクのモノサシ—安全・安心生活はありうるか (NHKブックス)

2006刊行。この人の著作を読むのは初めてだったが、波長が合ったのか、考え方も整理できて有益な一冊だった。その後の新刊も読んでみたい。
インフルエンザに関する論も多数掲載されている。それも含めて、いくつか感想を。

まずメディアの問題を論じた後、続いて第2章という早い部分で専門家の問題を扱っているのに好感を持った。専門家は客観性を重視してトレーニングされるあまり、自分の判断が客観的であるという過信に陥りやすいのではないか、と著者は投げかける。この素朴なリアリズムがあるために専門家はなかなか自説を曲げない。それがリスク評価の混乱に繋がるという論点。むしろ専門家はしっかりデータを見て、リスク評価をどんどん更新すべきだという意見は重要だと感じた。

第4章でリスク評価のモノサシを提案していて興味深いが、これはインフルエンザにふさわしい方法だろうか。
人は個々のリスク評価をうまく考えられないので、あらかじめがんのリスクはこれくらい、交通事故はこれくらい、火事、自然災害、落雷による死亡はこれくらい、と一覧表にしておいて、そこにいま知りたいリスク評価を組み込むことで、より客観視できるというもの。たとえばインフルエンザ最悪のシナリオで68万人が亡くなるとすると、10万人あたりの年間死亡者概数は500となり、これはがんの250より上。こうしてみると、こんなことはありえないとわかる、と著者はいう。
だがどうなんだろう。「起こるかどうかが問題ではなく、いつ起こるかが問題」とよくいわれるように、1918年レベルのパンデミックがいつかくることは間違いないだろう。しかしそれがいつかはわからない。そしてインフルエンザは毎年変化する。つまりリスクがどんどん変化してゆくのがインフルエンザの特徴だろう。
つまりインフルエンザ全体としてみるなら、大きな危険がある。しかし今年はどうか、来年はどうかと、毎年のインフルエンザ状況に絞って考えるなら、リスクは大きく変わるわけで、こういったモノサシにそのまま一律に当て嵌めることはできないのでは? それがインフルエンザのリスク評価のいちばん難しいところなのでは?

後半の、信頼の話は興味深かった。人は誠実さでその人を信頼するのではなく、その人が自分と同意見であるかどうかで信頼するという仮説。また、リスク情報は安心ではなくむしろ不安をもたらすという指摘。
このへんは近著でさらに深まっているのだろうか。発展の余地を残しつつ将来性を感じさせる研究途上の報告書として、興味深く読めた。

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僕秩プレミアム! (アフタヌーン新書 004)

→朝日新聞2009.6.21「ごく普通の毎日に気づきのタネが

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感染症とたたかう -インフルエンザとSARS- (岩波新書)

2003.12発行。著者の田代眞人氏は国立感染症研究所ウイルス第三部部長、岡田晴恵氏は国立感染症研究所ウイルス第三部研究員(刊行当時)。このふたりは共著も多い。岡田氏は単著で一般向けの感染症予防対策指南書などをたくさん執筆している。
本書の役割分担は明確ではないが、インフルエンザとSARSについて詳述された1、2、4章には「筆者(田代)」という表記がある。3章はインフルエンザワクチンの歴史的経緯を詳述。5章と6章で成人麻疹と風疹を扱う。重要な事項がよく整理されており、過去を踏まえた現状への考え方など筋道もよくわかる。刊行時までの情報に限られてはいるが、インフルエンザに限らず感染症を扱う新書のなかではまず読んでおきたい本のひとつだと思う。

ところでインフルエンザ本についてはいろいろAmazon.co.jpの読者レビュー欄を見ると、やはりタミフルの副作用がマスメディアで大きく取り上げられた時期には副作用問題に敏感なレビューが寄せられている。ワクチンについてもそういった社会的雰囲気という背景があるだろうと、個人的には感じている。研究者の問題意識と、ふつうの人の問題意識にはズレがある、という難しい課題もある。全体として評価するのか、それとも自分がインフルエンザに罹るのか・罹らないのか(自分が副作用の被害を受けるのか・受けないのか)という、科学的視点と個人的体験のせめぎ合いがあるためだろうか。このへんのことについてはもう少し類書を読みながら考え続けていきたい。

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インフルエンザとは何か (文庫クセジュ)

1997.10刊行、原著は1996刊行。著者はパストゥール研究所のインフルエンザウイルス研究者。
文庫クセジュで科学系の話題を読むときの居心地の悪さはちょっと独特だ。いかに自分が英語圏ズレしているか思い知らされる。冒頭の推薦文で、加地正郎先生らが流麗な訳文と誉めているが、英語圏の本の言い回しと微妙に異なる気がして、読んでいてむずむずする。気のせいかも。
インフルエンザは英語ではFluだが、フランス語ではla grippe(あなたを捕まえるもの)になるらしい。
著者は日本語版への序文で、日本のワクチン問題に釘を刺している。本文の内容はいたってふつう。うーん、いまとなっては読まなくていい本かもしれません。
どうでもいいが最終ページにインフルエンザを扱った小説の紹介があって、スティーヴン・キングのLe fleauとか書かれていると違和感ありまくり。1997年にはまだ邦訳が出ていなかったか。『ザ・スタンド』ですね。

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